ディスクリートオペアンプの作り方①特性を手計算で見積もる

オペアンプ

2SC1815でディスクリートオペアンプを作ってみます。

はじめからシミュレーションすることもできますが、最初にざっくり手計算しておくと、
「どの段がゲインを稼いでいるのか」
「どこに支配極ができるのか」
「だいたいどのくらいの帯域になりそうか」
が掴めて、回路特性の見通しが良くなります。

この記事では、今回使う回路を

  • カレントミラー
  • 差動対
  • 出力段
  • 位相補償

の4つに分けて、開ループDCゲインと周波数特性を概算します。

基本構成

今回作るオペアンプは、最も作りやすく単純な構成とします。

今回の回路は、大きく見ると次の3段構成です。

  • Q1, Q2, Q3 周辺:npn カレントミラーで各段のバイアス電流を作る
  • Q4, Q5, Q6, Q7 周辺:差動入力段で最初の電圧増幅を行う
  • Q8, Q3 周辺:出力段でさらにゲインを稼ぐ

さらに、差動対出力と出力段の間に 補償容量 Cc​直列抵抗 Rc​ を入れて、開ループの周波数特性を安定化します。

一方で、このオペアンプは原理実証的な構成です。
汎用的に利用する上で足りない要素、致命的な欠点もあります。
原理実証回路がどのくらい使い物になるか?という疑問に答えるのも、今回の目的の1つです。

素子は入手しやすい以下のトランジスタを用います。

  • npnバイポーラトランジスタ:2SC1815
  • pnpバイポーラトランジスタ:2SA1015

カレントミラーで1 mAの基準電流を作る

左下の Q1 はダイオード接続された npn トランジスタで、ここに 1 mA を流して VBEV_{BE} を作ります。
その VBEV_{BE}を Q2, Q3 にも与えることで、ほぼ同じコレクタ電流を流す単純なカレントミラーにしています。

・VBEを求める

基本的なバイポーラの電流式は次式で表されます。

IC=ISexp(VBEVT)I_{C} = I_{S}\exp\left(\frac{V_{BE}}{V_{T}}\right)

IC=1 mAI_C=1\ mAVT=kbTq26 mVV_T=\frac{k_bT}{q}\approx26\ mVの熱電圧です。
Isはデバイス次第で変わりますが、今回はSIMモデルから6 fAとします。
したがって、次式が成り立ちます。

1×103=6×1015×exp(VBE26 mV)1\times10^{-3} =6\times10^{-15}\times\exp{\left(\frac{V_{BE}}{26\ mV}\right)}

この式を解くと

VBE=0.67 VV_{BE}=0.67\ V

ここでは、Q1 が 0.67 V 程度の VBEV_{BE}​ を作り、Q2 と Q3 がそれをコピーして 1 mA 近い電流を流すという動作です。
ただし、実際はカレントミラーによるベース電流の減少やコレクタ電圧の不一致の影響で、電流は完全一致しないことが多いです。

差動対のゲインの概算

pnpカレントミラー負荷を有するシンプルな差動対です。
Q4 と Q5 が入力差動対、Q6 と Q7 が pnp カレントミラー負荷です。
Q2 が作るテール電流は約 1 mA なので、平衡時には左右に約 0.5 mA ずつ流れます。

・差動対のゲイン
まず、入力トランジスタ1個あたりのトランスコンダクタンスは次式で表されます。

gm=IcVTg_m=\frac{I_c}{V_T}

ここにIc=1mA/2=0.5mAと熱電圧を代入します。

gm=0.5 mA26 mV=19.2 mSg_m=\frac{0.5\ mA}{26\ mV}=19.2\ mS

出力抵抗 ror_oはEarly 電圧から求めるべきですが、ここでは npn と pnp をそれぞれ約 30 kΩ と見積もります。
合成抵抗としては、npnとpnpの並列の抵抗値です。

ro=ronpn//ropnp=30 kΩ//30 kΩ=15 kΩr_o=r_{onpn}//r_{opnp}=30\ k\Omega//30\ k\Omega=15 \ k\Omega

以上の値から、差動対の電圧ゲインは概算で以下の値になります。

Av1=gm×ro19.2mS×15 kΩ=288=49 dBA_{v1} = gm\times r_o\approx19.2 mS \times 15\ k\Omega = 288= 49\ dB

荒い近似計算ではありますが、「差動対だけで数十 dB のゲインがある」と把握できました。

出力段のゲインを概算

出力段は1mAのカレントミラー負荷を有するエミッタ接地増幅回路です。

・出力段のゲイン

Q8の電流は1mAなので、gmは38.5 mSとなります。

gm=1 mA26 mV=38.5 mSg_m=\frac{1\ mA}{26\ mV}=38.5\ mS

roは、先ほどと差動対と同様に15 kΩとします。
したがって出力段のDCゲインは以下のようになります。

Av2=gm×ro38.5 mS×15 kΩ=577=55 dBA_{v2} = gm\times r_o\approx38.5 \ mS \times 15\ k\Omega = 577= 55\ dB

増幅段に流れる電流が差動対の2倍の1mAであるため、差動対のゲインの2倍(+6 dB)となっています。

位相補償

差動対出力と出力段の間には、補償用のコンデンサ CcC_c​ と抵抗 RcR_cが入っています。

・Ccの役割

Ccは位相補償を行うためのコンデンサです。
ここで重要なのは、出力段に電圧ゲインがあるため、差動対側から見ると CcC_cCc​ が大きく見えることです。
今回の場合、差動対出力側からはCcは約578倍されて見えます。

Ceff=(1+Gainout)Cc=578×CcC_{eff}=(1+Gain_{out})Cc=578\times Cc

この大きく見えた容量が差動対出力ノードに大きな時定数を作るため、ここが支配極(第1極)になります。

・Rcの役割

Cc​ だけを入れると、位相を悪化させるゼロ点が現れます。
そのゼロ点を高周波へ追いやるために、CcC_cに直列に RcR_cを入れます。
ゼロ点は以下の角周波数に形成されます。

ωz=1Cc(Rc1gm)\omega_z=\frac{1}{Cc\left(Rc-\frac{1}{g_m}\right)}

したがって、ゼロ点を十分高周波へ移す条件は

Rc=1gmR_c=\frac{1}{g_m}

今回の出力段は gm38.5 mSg_m\approx 38.5\text{ mS}なので、以下の値が目安です。

Rc138.5 mS=26 ΩR_c\approx\frac{1}{38.5\ mS}=26\ \Omega

ゲインと周波数特性

・DCゲイン
DCゲインは差動対と出力段のゲインの積です。

GainDC=288×577=166176=104 dBGain_{DC}=288\times577=166176=104\ dB

・第1極
第1極は、差動対の出力抵抗と、出力段のDCゲイン倍されたCcの積で見積もられます。
Ccは1 nFとしました。

f1=12πRoutGainoutCc=12π×15 kΩ×577×1 nF=18.4Hzf_1=\frac{1}{2\pi R_{out}Gain_{out}Cc}=\frac{1}{2\pi\times15\ k\Omega\times577\times1\ nF}=18.4 Hz

・第2極
第2極は出力段の極であると仮定します。
出力段の負荷容量は、オシロスコープのプローブ容量を想定し20pFとしました。
また出力段の出力抵抗は、高周波では1/gmと見積もれます。
したがって、第2極は以下と推定できます。

f2=gm2πCL=38.5 mS2π×20 pF=306 MHzf_2=\frac{g_m}{2\pi C_L}=\frac{38.5\ mS}{2\pi\times20\ pF}=306\ MHz

・ユニティゲイン周波数
ユニティゲイン周波数は、以前の記事で紹介したように以下の式で見積もることができます。

fu=A0f1166176×18.4 Hz=3.06 MHzf_u=A_0f_1=166176\times18.4\ Hz=3.06\ MHz

・位相余裕
こちらも、以前の記事で紹介したように以下の式で求められます。

PM=90tan1(A0ω1ω2)=90tan1(3.06 MHz306 MHz)90PM= 90^\circ – \tan^{-1}\left(\frac{A_0\omega_1}{\omega_2}\right)=90^\circ-\tan^{-1}\left(\frac{3.06\ MHz}{306\ MHz}\right)\approx90^\circ

まとめ

今回作成するディスクリートオペアンプの特性の見積もりが完了しました。
もちろん、以上の結果はかなり単純化した見積もりです。
次回は、この概算結果がシミュレーションとどの程度一致するかを確認します。

お疲れ様でした。

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